【映画】ビニー 信じる男

 さて、全3回のSAVE THE CATの紹介も終わりました。今後は鑑賞した映画をここに載せたいと思います。ほとんど備忘録になってしまいますが、興味がある方はご覧ください...

 

 今回の映画は「ビニー 信じる男」。主要都市の劇場はTOHOシネマズ シャンテしかないので、日比谷へ足を運ぶ。ビニー 信じる男」は狂気的な天才作品。個人的に大好きな系統。自分史上最高作品の「セッション」のマイルズ・テラーが主演の狂気的天才モノというだけで足を運ぶ理由が出来る。漫画で言うと、「MAJOR」「BLUE GIANT」「スラムダンク」「アオアシ」あたりが近い。(スポ根が多い)

 

 ということで下記に詳細を。SAVE THE CATに習ってログライン、ジャンル、脚本分解を行います。

 

  

概要

「セッション」のマイルズ・テラーが主演を務め、交通事故から奇跡のカムバックに挑んだ実在のプロボクサー、ビニー・パジェンサを演じた人間ドラマ。うぬぼれ屋のボクサー、ビニーは世界タイトルを獲得するが、自動車事故で首を骨折する大怪我を負ってしまう。医師から選手生命の終わりを告げられ、周囲の人々はビニーのそばを離れていく。しかし自らの復活を信じるビニーはトレーナーのケビンのもとで命懸けのトレーニングに励み、王座奪還を目指す。マイク・タイソンを世界チャンピオンに導いたことで知られる名トレーナーのケビン・ルーニー役に「ハドソン川の奇跡」のアーロン・エッカートマーティン・スコセッシ製作総指揮の下、「マネー・ゲーム」のベン・ヤンガーが監督・脚本を手掛けた。

 

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  予告はこちら。

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 監督・脚本

 「マネー・ゲーム」を手掛けたベン・ヤンガー

 制作総指揮

 直近では、「沈黙-サイレンス-」を手掛けたマーティン・スコセッシ

 主演

 自分史上最高作品「セッション」で主演を努めたマイルズ・テラー

 

※以下ネタバレを含みます。お気を付けください。

 

ログライン

 「元ボクシングチャンピオン。再起不能の大怪我を乗り越え再びリングへ。」

 こんな感じですかね。元ボクシングチャンピオンだけど再起不能の怪我をしてしまう。この部分が、「皮肉」に当てはまりそう。そして、再起不能級の怪我を乗り越えていく様がイメージ出来る。マイルズ・テラーならなおさらだ。 

ジャンル

 「難題に直面した平凡な奴」

 元チャンピオンは平凡なのか?という疑問はあるが、"再起不能の怪我"という難題を前提にすると、平凡に当てはまるのではないか。

 

脚本の分解

1. オープニングイメージ

 ボクシングの体重測定日。そこに主人公ビニー・パジェンサの姿はない。実はギリギリまでトレーニングを行い減量に励んでいた。ここからは、ビニーの大胆さや大雑把さがわかる。パフォーマー的な才能も垣間見える。

2. 開始5分のテーマ提示

 意気揚々と臨んだ試合で負けてしまうビニー。ここで、主人公ではあるが、最強ではないことが示される。

 

3. 開始10分のセットアップ

 非凡な才能を持ちながらもあと一歩のところで勝てない試合が続く。このスランプ?を乗り切り、勝てるボクサーになることがこの作品の大きなテーマだろう。
 

4. きっかけ

 今後トレーナーになるケビンとの出会い。最初は全く期待されていない。

 

5. 悩みの時

 ケビンはビニーに2階級上げることを提案。家族を始めとした周囲からは猛反対される。ビニー自身も本当に2階級上げるべきなのか悩む。

 

6. 第一ターニングポイント

 ケビンの進めにより、悩んだ末、ビニーは2階級上げることを決意。

 

7. サブプロット

 充実していくプライベートシーン。カジノで勝利バーレスクで美女にモテる。見ているだけで楽しめるシーン。

 

8. お楽しみ

 ーすべて上手くいくはずだった。ボクシングでは階級を上げ、今までにない体重がのったパンチを身に着ける。プライベートも仕事も順風満帆に見える。

9. ミッドポイント

 ケビンが強く拘り階級を上げたビニー。遂にジュニアミドル級初となるタイトルマッチが決まる。

 

10. 迫り来る悪い奴ら

 階級を上げて本来の才能を開花させたビニーは見事タイトルマッチで勝利をおさめる。

 

11. すべてを失って

 ビニーを乗せた車が交通事故。歩けるようになるかどうかというレベルの大怪我。医者からは再起不能と言われてしまう。病室で目覚めたビニーは現実を受け入れられない。

 

12. 心の暗闇

 「もう一度リングに上がる。」と語るビニー。しかし、周囲の人間は全員反対。更に、周囲はビニーを過去の人のように語る。周囲の反対とは裏腹に自宅で隠れてトレーニングを開始する。もちろん、怪我は全く治っていない状態。トレーニングを始めたビニーは絶望する。ベンチプレスを試みるも全く持ち上げることが出来ない。重りを全て取った状態(恐らく15〜20kgくらい)ですら持ち上げるだけで精一杯。自分の体が自分のものでないような絶望を味わう。

 

13. 第二ターニングポイント

 ビニーはケビンにトレーニングの手伝いをお願いする。一度は断ったケビンだが、ビニーの熱意に負け、密かにトレーニングを手伝うようになる。一度断った後に「やるならベンチプレスじゃなくて肩だろ。」とさり気なく言うケビン。この男気あるシーン泣ける。ここから、当時の映像を絡めて数々のトレーニング風景がテンポ良く流れる。頭に大きなギブスを付けながら、ハードなトレーニングをする姿は観客を圧倒する。半年後、ビニーはギブスを取れるほどに回復し、ボクサーとしてのトレーニングを再開する。

 

 しかし、ここでもまた難題。一刻も早く試合をしたビニーとは裏腹にスパーリング、試合共に受けてくれる人がいない。そこでケビンはギブスをしながらトレーニングをしていたビニーの映像をマスコミに流す。そうした努力が実り、遂に復帰戦が決まる。しかも相手は当時のスーパーミドル級世界王者のロベルト・デュラン。こうしてビリーはデュラン戦に向けてトレーニングを続ける。

 

14. フィナーレ

 試合当日。意気揚々と試合に望むビニーだったが、試合は終始デュランのペース。誰がどう見てもデュランが勝つことを察していた。7ラウンド目を迎える直前、ケビンがビニーに「地下でのトレーニングを思い出せ。俺らはあそこから這い上がってきたんだ」と火をつける。この言葉で完全に目覚めたビニーは、見違えたようにコンビネーションを決め始める。

 気がつけば、試合開始時にブーイングばかりだった観客が立ち上がってビリーを応援している。最終ラウンドまで熱戦を繰り広げたビニーは判定勝ちをおさめ、世界王者の座を再び手にするのであった。

  

15. ファイナルイメージ

 ファイナルシーンでインタビューに答えるビニー。「人々が俺に言った最大の嘘は『(物事は)そんなシンプルじゃないんだ』という言葉だ。本当は何事もシンプルなのに。それは人々が誰かを諦めさせるためにいつも使う言葉だ」。シンプルにかっこいい。

 

感想

GOODポイント

1. 狂気的な精神力による再起

 本作の1番の見どころ。事故現場では顔面が血だらけ。顔には大きなギブス。医者からは絶対安静が前提で、歩けるようになることがやっとと告げられる。周囲もビニーを過去の人と捉え、ビニーから距離を置き始める。普通なら引退を決意する絶望的な状況。それでただ前を向き、愚直に突き進む姿には心動かされる。

 

2. 「諦めるのが怖いんじゃない、諦めるのが簡単なのが怖いんだ」

 本作で1番刺さる言葉。周囲が皆、再びリングに上がるビニーを止める。そこでトレーナーのケビンに語った言葉。諦めるという選択は簡単にできてしまう。しかし、その選択を取った瞬間に自分が生きる意味は失われる。絶望的な状況の中で発されるこの言葉は非常に重い。この重く深い言葉に考えさせられたり、勇気づけられる人は多くいるはずだ。

 

3. 創り手都合に見えてしまうくらい出来過ぎた話だからこそ生きる現実の映像

 サクセスストーリーにはリアリティが必要だ。しかし、この話は何も知らないで見ていると確かにできすぎている。だからこそ、プロモーションでは「実話」ということを推していた。そして、中身では現実の映像を挿入することで一気にリアリティが増す。大きな効果を生んだと思う。

 

イマイチポイント

1. 〜すべてを失ってまでが冗長

 狂気的天才作品で心が1番動くのは、「最もピンチになってから如何に立ち上がるか」という部分である。しかし、本作では大怪我をするまでが3/5ほどを占めていたのは個人的に残念だった。

 

2. 心理描写が少ない

 完全に個人の話だが、狂気的天才作品には、"圧倒的な動機や目的"が必要だと思う。MAJORのVS海堂編では足を怪我している茂野吾郎が"皆に恩返したいから"、"海堂に勝ちたいから"、"聖秀の皆で甲子園に行きたいから"という圧倒的な動機によって数々の困難を乗り越えようとした。結果的にその部分が最も心が動く場所である。残念ながら本作では、ビニーが"もう一度リングに上がりたい"と言うもののそこに明確な動機を感じることが出来なかった。もしかしたらプロセスを大切にする日本人ならではの感覚なのかもしれない。

 

 もっと欲張ると、心理的描写は"音楽"の力を借りてほしい。特に立ち上がることを決意する瞬間は"覚醒"したかのような音楽があると最高に盛り上がる。

 

おすすめ度

 3.7 / 5