※ネタバレあり『打ち上げ花火〜』感想・考察(映画:打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?)

 今回は8/18(金)に公開されたばかりの映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を鑑賞してきた。ヒットを生み続けている川村元気さんプロデュースということで迷わず足を運んだ。原作は、多くの熱狂的ファンがいるそうだが、私は恥ずかしながら原作は未鑑賞。正直、事前に原作を見てから行くべきか迷っていた。しかし、昨年原作を知っていた「聲の形」を見た時に、『原作の再現度高いけど、新鮮さはあまりないなー。。。』と感じてしまった。そのため、今回は原作を後追いで見ることを決めた。

 

 今回もSAVE THE CATに習ってログライン、ジャンル、脚本分解を行います。SAVE THE CATの記事はこちら。

entm77.hatenablog.com

 

 

 一応、映画前の印象をまとめておく。

  • アニメ化を担当するのは"物語"シリーズで有名な「シャフト」。
  • 会社の特徴的に原作と形を変える可能性が高い。
  • 原作と異なる展開になった時、原作を見ているとネガティブ要素が大きい。
  • そういう意味でも原作は見ないでおこう。
  • 絵のテイスト、色の鮮やかさ、アニメジャンル、公開時期、プロデューサーから"ポスト君の名は。"を目指していそう。
  • また、原作も脚本も好きな方なので、楽しみ。
  • ヒロインの声優が広瀬すずさんなので、声も楽しみ。

  

 

概要

夏休み、とある海辺の町。花火大会をまえに、
「打ち上げ花火は横からみたら丸いのか?平べったいのか?」
で盛り上がるクラスメイト。そんななか、典道が想いを寄せるなずなは母親の再婚が決まり転校することになった。
「かけおち、しよ」
なずなは典道を誘い、町から逃げ出そうとするのだが、母親に連れ戻されてしまう。それを見ているだけで助けられなかった典道。
「もしもあのとき俺が…」
なずなを救えなかった典道は、もどかしさからなずなが海で拾った不思議な玉を投げつける。すると、いつのまにか、連れ戻される前まで時間が巻き戻されていた…。何度も繰り返される一日の果てに、なずなと典道がたどり着く運命は?

 

hlo.tohotheater.jp


  予告はこちら。

www.uchiagehanabi.jp 

 

総監督

 シャフトの新房昭之さん。

原作

 コアなファンが多い岩井俊二さん

脚本

 「モテキ」、「バクマン。」で有名な大根仁さん

 

※以下ネタバレを含みます。お気を付けください。

 

 

ログライン

 「もしも、少年がもう一度あの日をやり直せたら。」

 これは、予告編で散々推している部分。なので、間違いはなさそう。中学生=青春=戻れない日々。でも、やり直したいという純粋な皮肉。この段階では時をかける少女やオレンジに近い印象。

 

ジャンル

 「金の羊毛」

 概要:主人公は何かを求めて旅に出るが、最終的に発見するのは別のモノ(=自分自身)。主人公は旅の途中で人々と出会い、様々な経験を通して、成長する。

 主人公は、ヒロインと今日1日だけで良いから一緒にいたいと願う。ただ、最終的なゴールは異なっているように思う。結末については下部で書こうと思う。

 

脚本の分解

1. オープニングイメージ

 綺麗で自然豊かな町並み。海に面した町。田舎の男子中学生4人組が自転車とキックボード?で登校するシーンから始まる。始まりはルーのうたに似てる。

 

2. 開始5分のテーマ提示

 登校中、主人公(典道)は海辺にいる女性(ヒロイン:ナズナ)に見とれる。ナズナはクラスメイト。ふとナズナ典道の方を見て目が合う。慌てて目をそらす典道。気弱な男主人公が憧れの女性を見つめている、という王道パターン。

 また、ナズナは綺麗な球を拾う。この球がタイムリープに大きく関わることになる。その提示が行われている。

3. 開始10分のセットアップ

 中学の教室内。典道の友達(祐介)がナズナの話を持ち出す。周りは典道がナズナのことを好きだということを知っているのだろう。一方、ナズナは、自分の世界を持ち大人びた女の子として描かれている。授業中、オチャラケたクラスメイトと先生の会話に目を向ける生徒たち。しかし、ナズナは一切そちらを見ない。
 放課後、典道と祐介がプール掃除に向かう。そこには部活がないにも関わらず、片足をプールにつけながらプールサイドで寝ているナズナの姿。ここからもナズナが一風変わった女の子であることがわかる。
 

4. きっかけ(人生が変わるきっかけ)

 そのプールで典道と祐介とナズナは50m水泳で競争することに。ナズナが「私が勝ったら何でも言うこと聞いてね。」と競争が始まる。この辺はギャルゲーっぽさが強いw結果は、1位ナズナ(水泳部)、2位祐介、3位典道。そして、ナズナが祐介を夜にある花火大会に誘う。「花火行くの?2人で行こうよ。5:00に迎えに行くから。」とナズナ。こんなこと言ってくれる美女は中々いないw

 また、教室で打ち上げ花火は横から見ると丸く見えるのか、平べったく見えるのか?という賭けが行われる。

 上記2つの出来事が本作の核心に大きく関わる。

 

5. 悩みの時

 時刻は祐介とナズナが約束した5:00。 祐介は照れ隠しからか、典道に気を使ったのか、ナズナとの約束をすっぽかし、仲良い男メンバーで花火に向かってしまう。

 一方、典道はプールで怪我した傷が大きく、祐介の家の病院に向かう。そこで1人寂しく待つナズナに会う。典道はナズナに祐介が来ないことを伝え、2人でナズナの家へ向かう。歩きながらナズナの話を聞く典道。どうやらナズナは典道を花火に誘おうとしていたようだ。

  • ナズナは競争に勝った方を花火に誘おうと思っていた
  • 且つナズナは典道が勝つと思っていた

 その後、ナズナの家の近くでナズナの母が現れる。そして、ナズナを無理矢理家に連れ戻す母。抵抗するナズナ。持っていた荷物と海で拾った球体は地面に転がる。その場に立ち尽くす典道。どうやら、母が再婚し今日引っ越してしまうらしい。

 ナズナと一緒に花火を見たい。でも自分は勇気がなく何も出来なかった。これこそ悩みの時。

 

6. 第一ターニングポイント

 ナズナが母に引っ張られる姿を祐介たちが偶然見かけ、あざ笑う。それを見た典道は怒り、祐介をぶん殴る。そして「もしもあの時、競争で自分が勝っていれば...」とナズナが海で拾った不思議な球を思いっきり投げる。

  意見を言わなかった弱気な典道が、自分の意見を貫く。(祐介を殴る)そして、今まで見てみぬふりをしていた、自分の気持ちに素直になる。この2つが殻を破る第一歩。

 

7. サブプロット

 この映画ではなかった。全体的に緊張感がある物語ではないことから削ったのか。サブプロットがないのは、かなり珍しいタイプだと思う。

 

8. お楽しみ

 ターニングポイントの行動がトリガーとなり、タイムリープし、第二世界線(仮称)へ。プールで典道が勝った瞬間から始まる。ここから第一世界線のプール〜花火の一連の流れを繰り返す。ただし、様々な場面で言葉が少しずつ変わっている。

 

9. ミッドポイント

 友達との約束をすっぽかし、ナズナと出かける典道。偶然それを見て、不機嫌になる祐介。ここから祐介は実は本気でナズナのことが好きだったと推測出来る。典道と祐介は電車に乗り、どこか遠くへ出かけようとする。しかし、電車が来る直前にナズナの母と再婚相手がやってきて、連れて行かれるナズナ。ここでもまた、典道は見ているだけで何も出来ない。ここでは典道はタイムリープの方法は分かっていない。

 不思議な球を手に取り、友達と合流し、花火を見る。しかし、花火の形がおかしい。そこで典道は初めて世界線がおかしいということに気がつく。正しい世界線に戻るため、ナズナを助けるため、不思議な球を持ち「もしもあの時、ナズナと電車に乗れていれば」と強く思う。

 

10. 迫り来る悪い奴ら

 無事第三世界線へ。今回はナズナが連れ去られる直前のホームから。前回の失敗を生かし、何とかナズナを連れ出し、電車に乗ることに成功。ただし、電車の外からナズナの母から、踏切で祐介から電車の中の2人が発見され、追いかけられる。絶対絶命シーン。そして、この世界の花火も形が変であったことから、正しい世界線でないことに気がつく典道。

 2人だけの時間を過ごすため、正しい世界線に戻るため、再び不思議な球で第四世界線へ。

 

11. すべてを失って

 ミッドポイントで絶不調だったので、絶好調状態へ。数々の困難を避け、無事に2人だけの時間へ。

 しかし、世界は明らかにおかしい。歪んでいる風景。海の上を走る電車。

 そこから2人は電車を出て、海岸へ。ここからラストシーンへ。

 

12. 心の暗闇

 海に入った2人はお互いに自分の気持ちを解放し、キスをする。

 

13. 第二ターニングポイント

 一方で、酔っぱらいの花火師が不思議な球を花火だと思い、燃やしてしまう。不思議な球の破片には、ifの世界の記憶(つまり、経験していないシーン)が溢れていた。

  恐らく、ここで現実と異世界の境目が崩壊している。が、そんなことはあくまでも予想でしかなく、このあたりは「よく分からないが美しくノスタルジックなシーンを見つめている」時間になっていく。

  

14. フィナーレ

 ifの世界の記憶で、ナズナが「次はいつ会えるかな?」と言って姿を消す。ナズナタイムリープのことを知っていたのか??そこは不明。

  

15. ファイナルイメージ

 最終シーン。恐らく夏休みが終わった教室。そこにはナズナの姿も典道の姿もない。ここに対する意見も別れており、話題になっている。

 

感想

GOODポイント

1. ヒロイン「ナズナ」の人間性

 実際にインタビューなどで監督も言っているが、ナズナのつかめない人間性。ここが個人的な女性の趣味とマッチしたw中学生とは思えない大人びたナズナ。何を考えているかつかめないナズナ。しかし、中学生らしいピュアな一面も見える。例えるなら、ラブプラスのりんこちゃんのような不思議な子。自分を持っていて、どこか闇を抱えているような一匹狼タイプ。男の人は結構好きなはず。

 

2. とにかく「雰囲気」が良い。

 綺麗な風景。化け物の子やサマーウォーズのようにマス受けしそうなグラフィック。見入ってしまうタイムリープのオシャレな演出。クライマックスの美しい演出。ノスタルジックな雰囲気を醸し出すテーマ曲"打ち上げ花火"。これは見ているだけで"何となく良い"と思える。

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3. 単なるタイムリープで終わらせない展開。

 タイムリープのアニメといえば、時をかける少女シュタインズゲート君の名は。などがある。特に「君の名。」以降はタイムリープ系の作品が乱立したように感じる。そして、タイムリープものはどうしても"答え探しモノ"似通ってしまう特徴があるように思う。これはゲームも同じで、タイムリープモノは"数ある選択肢の中から1つ(〜複数)の正解を探す展開になりやすい。しかし、本作はそのタイムリープへのアンチテーゼのように感じた。個人的には、「どんな未来も正解である」というメッセージを受け取った。単なるタイムリープモノで終わらせない良い挑戦だと思った。

 

イマイチポイント

1. ラストの曖昧さ

 良いところでもあるが、「ラストシーンが曖昧」で多くの人が理解できなそう。これが本作で酷評を受けているのだと思う。実際、ラストのストーリーは複雑且つ明言を避けているので、私もちょっともやもやした部分はある。

 でも言いたい。

 

 「そんなに分かりやすく正解が提示されるモノしか楽しめないの?」

 

  と。

 

 マスに受けないのは分かる。ただ、そのマスの意見で酷評フィルタをかけている人も多いように感じる。実際、私は、作り手からのメッセージや本当の結末を想像することで楽しめた部分はあった。

  • 「どの世界にも正解なんてない。どんな未来も正解である」というメッセージ?
  • 実は典道もナズナタイムリープを何度も繰り返している存在で作品のメッセージはない?
  • 実は、典道とナズナはもっと幼い時に仲良くなっていた。しかし、本作の序盤の世界線では異なる世界線にいた?

など、見た人と語り合える要素はたくさんある。

 

2. 展開が読めないドキドキが少ない

 作品の面白さの一つに「展開が読めないドキドキ」は存在する。正直本作はそのドキドキ感はなかった。というより、「え?なんで?」という斜め上をいく展開が多く、先が予想出来なすぎたのかもしれない。

 

という感じですかね。今から原作を見てみようと思います。

 

おすすめ度

 3.9 / 5